もの凄い描写力で描かれた小説を読みました
傑作です
絵が目に浮かぶ感じですか?
はい。しかも
静寂の音や、微かな匂い、わずかな空気の温度変化まで、
その場に居合わせているかのように伝わってくる筆力です
どんなお話しですか?
水墨画を物語の核に据えた青春小説です
水墨画で青春小説!
物語のティザー
両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介(そうすけ)は、 アルバイト先の展覧会場(水墨画「湖山賞」の応募作品展覧会)で会場内で小柄な老人と知り合った。
何百もの水墨画が掛けられた展覧会場をまわり、老人に感想を聞かれては思いついたことを語っていく。
最後、大きく華麗な薔薇の絵のところで立ち止まった。
霜介は驚いた。
墨一色で描かれているのに、花が真っ赤に見えたのだ。
その絵は水墨画の巨匠・篠田湖山の孫・千瑛(ちあき)の作品だった。
そして霜介と会場をまわった老人こそが篠田湖山だった。
水墨画とは無縁だった霜介だが、なぜか湖山に気にいられその場で内弟子にされてしまうことになった。
反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけての勝負を宣言する。
水墨画とは筆先から生み出される「線」の芸術。
描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、 線を描くことで回復していく。
そして一年後、千瑛との勝負の行方は。
少年漫画的な展開ですね
はい、
実際に小説刊行と同時に少年マガジンで漫画化されて連載が始まっています
これはきっと漫画も面白いに違いない
<Amazon コミックス版>
線は、僕を描く(1) (週刊少年マガジンコミックス)
水墨画を描くシーンの描写力
凄い描写力ということでしたが
絵を描く場面を文字で表現するのって難しそうですね
それが、見事に描写されているのです
これは実際に文章を読んでもらった方が良いですね
主人公・霜介は部屋に籠って水墨画の基本である「春蘭」の練習に明け暮れた後、千瑛の前で「春蘭」を描く事になります。
以下は、葉と茎を描き終え、次に花びらを描く前に筆洗(筆の穂先を水で洗うための器)で筆を洗うシーンの描写です。
筆を洗い終えると、含んでいた墨の重みが消えて、一円玉一枚分かそれ以下わずかに筆が軽くなる。肩の力が少しだけ抜ける瞬間だ。
筆を水でちょっと洗うだけなんですが
まるで自分が本当に筆を持っているかような気持ちになりますね
次は、墨を筆の穂先に含ませたあとに「春蘭」の花びらを描くシーンです。
すると、筆の中の墨は筆の中から紙の上に動き、みずみずしいその姿を現す。水に溶け、命を模した墨が、真っ白な最小限の現象のほうへ移動していく。現象の中に新しい命が生まれる。
それが花びらだ。
美しいです
ねー
作品中、絵を描くシーンはたくさんでてくるのですが、どのシーンをとっても同じ描写がひとつとしてありません。
全てその時々で、読み手が本当に筆を持って描いているかのように空気、墨の拡がり、匂い、音が違っているのです。
全く同じ状況下で絵を描く事はないですものね
線を描く描写だけで、
どれだけバリエーションがあるんだ?と驚嘆しました
凄いですね
凄いです、、、
私たちのこのボキャブラリーのなさw
ねーw
とにかく水墨画を描くシーンは息を呑むというか、固唾を呑みます。
優れた武道漫画を読んでいるかのようです。
「春蘭」砥上裕將(画)
著者:砥上裕將さん
著者の砥上裕將さんは本作『線は、僕を描く』がデビュー作になります。
本作は講談社主催の2019年第59回「メフィスト賞」の受賞作です。
プロフィールを確認すると、
水墨画家。
1984年、福岡生まれ。
温厚でおだやか。
お年寄りの趣味と思われがちな水墨画の魅力を、 小説を通して広い世代に伝えたいという志をもって、作品を書き上げた。
ウイスキーにジャズ、そして猫を心から愛する。
本作が、
水墨画家の処女作だという事実に本当に驚きます
猫を心から愛する
というのもポイント高いですね!
「メフィスト賞」は賞金なし、〆切なし、編集者の下読みなしという、出版社持ち込みに近い形の賞なのですが、それだけに時に凄い才能を発掘する賞です。
どちらかというとミステリーや伝奇作品の応募が多いイメージなのですが、ジャンルは問わず、とにかく面白い作品・才能の発掘を目指した賞です。
個人的には
2004年 第31回 『冷たい校舎の時は止まる』で受賞した
辻村深月さん以降、あまり好みの作家さんはいなかったのですが
ハマりましたか?
はい、
砥上裕將さんの次回作も必ず読みます
作者買いです
ミステリー色の強い「メフィスト賞」で、誰も死なない青春小説が審査員全員から大絶賛されて受賞したのですから、ただごとではありません。
2020年の本屋大賞は本作で決まり!・・・かなあ、と思ったりしています。
ある青年の再生する姿、その森羅万象を描き出す物語
またしても作中からの引用ですが
「水墨は、墨の濃淡、潤渇、肥痩(ひそう)、階調でもって森羅万象を描き出そうとする試み」
喪失感というモノクロの部屋に引きこもっていた大学生の霜介。
水墨画に出会うことで千瑛をはじめ、湖山門下の人々や大学の友人と繋がり、少しずつ霜介の日常世界が彩られていく様が余す事なく描かれた物語です。
モノクロの日常が水墨で色鮮やかに描かれる様をたっぷりと鑑賞してください。
全力でおススメの物語です
私も読みます
<Amazon 小説>
線は、僕を描く