「焼き芋は買わなくていいの?」
スーパーでちょうどいい焼き時間の表示を見つけると、きまって家人はそう問う。
毎年寒くなってくると、スーパー店頭に焼き芋があたりまえのように置かれるようになったのはいつからだろうか?
一つひとつ紙に包まれて、熱くなった小石の上に並べられ、温かくて甘い香りを立ち上がらせている。
百姓貴族あらわる
「あなたは焼き芋、そんなに食べられないじゃないですか」
「そうだねー...」少し寂しそうな家人。
「じゃあ、ひとつだけ買いますから。少し食べますか?」
「うん、少しなら食べる」と、本当に少ししか食べない家人は何故か嬉しそうに言う。
家人は私の事を焼き芋が大好きだと思っている。
以前、子どもの頃に食べていたおやつの話しをしていた時のことだ。
自分のうちに突然友達が来た時にだしていたおやつの話し。
家人はうちにお菓子がないときは柿とかいちじく、琵琶といった家の近くで採れる果物を食べていたという。
私はといえば、
「うちに蒸かしたお芋がありましたし、自分でも蒸かして食べてましたよ。すごく美味しかった♪」
そう答えると。家人は顔を曇らせた
「え?蒸かした芋?サツマイモ?」
「はい。サツマイモはおばあちゃんちにもありましたし」
「可哀そうに・・・」
えっ!?なぜっそうなるっ!?
蒸かしたお芋美味しいのに。さつまいも美味しいのに!
「サツマイモなんていうのはね、、、家畜の餌なんだよ」
とんでもない暴言を吐く家人。
そうだった。この人のご実家は百姓貴族だった。
イチゴに葡萄に桃にスモモの畑もあったそうだ。
木に実った桃を少し齧っては捨て、少し齧っては捨てという罰当たりな事を繰り返していた貴族の子息だったのだ。
もちろんサツマイモやカボチャの畑もあったそうだが、山ほど採れたそれらの芋・南京などは家人にとっては美味しくないものに分類されていたらしい。
喉に詰まるし、お腹がいっぱいなって苦しい。味も食感も単調で飽きるらしい。
なんと、牛や豚、山羊までいた家人の実家では、余った芋類は家畜の餌として利用していたのだ。
「鶏とウサギもいたよ」と家人。
まさか!ウサギも食用に?
「いや、それは可愛いから鶏と一緒に飼ってただけだよ」
私はほっと胸をなでおろした。
ウサギが好きだ。いや、食肉ではなく、動物して好きだ。
私は密かにシルヴァニアファミリーのウサギを集めたいと今でも思っている。
サツマイモと私
そんな家人なので、私に焼き芋を薦めるのはからかい半分かと思われる方もいらっしゃるかもなのだが、純粋に私が焼き芋大好き人間だと思っているからだ。
「焼き芋、何度食べても美味しいとは思わないんだけど。僕があまり好きじゃないという理由で君が焼き芋を我慢する必要はない。子どもの頃は好きでよく食べていたんでしょう?」と主張する家人。
「私が食べていたのは、蒸かした芋ですよ」
「焼き芋はあまり好きじゃないの?」
「大好きに決まっているじゃないですか!」
蒸かしたお芋も美味しいけれど、焼いたお芋は香ばしくて甘くてほっくりして喉に詰まって、呼吸が困難になって視界が狭くなって、意識がすっと遠のいて気を失いそうになる。
という遊びをしていた事を告白する私。
「・・・もう絶対にやっちゃだめですよ」と静かに、だがきっぱりと叱りつける家人。
「でも自分はそんなに好きじゃないのに、定期的に焼き芋を買おうって言いますね」
「うん」
「それで、何度食べてもあまり美味しいと思わないんですよね?」
「うん。もしかしたら美味しいのかもしれないと思って」
「なぜ、諦めないのですか?」私の疑問も当然である。
「つよぽんがね」
「僕の歩く道」
「よく食べてたから。ドラマで」
家人は一人暮らしのころ、熱心に見ていたドラマがあったらしい。
草なぎ剛君主演の「僕シリーズ3部作」
その中でも『僕の歩く道』は比較的明るい話が多くて、定期的に繰り返し見ていたという。
「特に第4話がヨシ!」と言う家人。
『僕の歩く道』は、脳の発達障害をもつ自閉症の青年(輝明)が主人公。
自分の殻に閉じこもってしまうというわけではなく、新しい仕事にもチャレンジするのだがコミュニケーションがうまくとれないため、周囲の無理解や差別的な扱いを招き、ひとつの仕事を続けることができないでした。
そんな時、幼なじみの都古の勧めで、都古の務める動物園で試しに2週間働く事になる事から物語は始まります。
自閉症の青年と接する事になった職場の人々の戸惑いや、輝明の将来に悩む家族の葛藤を描くという重苦しいテーマです。継続して視聴するにはヘビーな題材です。
しかし、純粋かつ真っすぐな輝明によって時にコミカルな印象のドラマになっています。
決して綺麗ごとに終始するドラマではありません。
予測不能な行動をする輝明=予測不能の演技をする草なぎ君の姿を追ってるうちに、見ている方も輝明を取り巻く登場人物と同じように驚き、苛立ち、心配し、笑ってしまう。
画面の向こう側のドラマの登場人物になったかのような気持ちになる不思議な魅力なドラマです。
問題の焼き芋登場のシーンは第4話
動物園の仕事を終えた都古と輝明は移動販売の焼き芋を見つけます。
「焼き芋食べる?」と輝明に聞く都古に頷く輝明。
2人仲良く焼き芋を食べているように見えますが、実はこれ輝明は自分の焼き芋だけさっさと食べているシーンです。
ベンチで輝明が焼き芋を買ってるくるのを待っていた都古でしたが、輝明が買ってきたのは自分のぶんだけ。
都古は笑顔で自分の分も買いに行って、戻ってベンチに並んでいるところです。
数日後、輝明は母から夕方には雨が降るからと黄色い傘を持たされます。
都古はといえば、前日に不倫の恋に区切りをつけようと別れを決心していました。
いつかと同じように動物園の仕事を終えて帰る二人は再び焼き芋を買ってベンチに座ります。
さきほどから都古の携帯には不倫相手の男からの電話が何度もかかってきます。
都古は電話を無視します。
黙って焼き芋を食べ始める輝明。
都古も食べ始めます。
携帯が鳴りつづけます。
やがて雨が降りはじめ、輝明は傘をさします。
傘を持たない都古は雨に打たれたまま。
また携帯が鳴ります。
やがて携帯が鳴りやみ、都古は雨と一緒に涙で頬を濡らします。
雨の中、都古と輝明は黙々と焼き芋を食べます。
都古は静かに泣き続けています。
その時、
まっすぐ前を向いたまま、輝明はぎこちない手つきで傘を都古にさしかけます。
一瞬驚いた様子の都古。
堰を切ったように涙が溢れ、声をだして泣きはじめる都古。
輝明はただ黙々と焼き芋を食べています。
「良い回だった、、、」と感動を反芻する家人。
「なるほど、、、その時、剛君が焼き芋を美味しそうに食べていたからなんですね?」私に焼き芋を薦めるのは。
「いや、それがね。そんなに美味しそうには見えなかったんだよ」
「?」
「草なぎ君、無表情で黙々と食べてたからね。あれ美味しいのかな?どう見てもホクホク系の芋だったらから胸やけしないかな?って思いながら見てた」
「美味しそうには見えなかったんですね?」
「うん。だけど、あんなに食べてるんだから実は美味しいのかもしれない、もしくは美味しいと思う時がくるのかもしれない。いつまでも自分の固定観念に囚われていちゃダメなんだなと思って、、、何事も挑戦、みたいな?」
よくわからない、謎思考の結果が私への「焼き芋の薦め」の動機であったらしい。
だが、家人は依然として焼き芋を美味しいと感じる事はなかった。
その芋に出会うまでは、、、
キャラメル芋あらわる
そうあれはいつだったか、忘れもしない、、、いつだったか、、、
「生キャラメル芋っていうサツマイモを買ってきたよ」と家人
私には普通のサツマイモのように見えたのだが、オイシックスの袋に入ったそのサツマイモには焼き方まで同封されていた。
「なんかね、しっとりクリーミー、キャラメルみたいに甘くてスイーツみたいってポップに書いてあったよ」と期待に満ちた顔で報告する家人。
「わかりました。やってみましょう」神妙な顔つきで私は生キャラメル芋を手にキッチンに向かった。
約2時間後、、、
部屋は甘くて香ばしい、カラメルのような香りで満たされていた。
「これは、、、」驚く家人。
「美味しいですね、、、」
「喉に詰まらない」
「甘い」甘すぎるかもしれません。
「美味いね」
「美味しいですね」美味しすぎたかもしれません。
「またやっちゃいましたか」
「やりましたね」と力強く頷く私。
猫も見守る
食べてみる?
猫だからわかりません
やっぱりw
平和な人たちだなと思う私であった。
キャラメル芋の品種
おそらくOisixがネーミングしたブランド芋だと思うのです。
Oisixのサイトではこう書かれていました、
甘みにすぐれた品種を選び、9月に収穫してから2ヶ月以上の間じっくりと貯蔵。
サツマイモのでんぷんが糖に変わり、甘みが高まったタイミングで満を持して出荷。
この甘みにすぐれた品種ってなんだろう?とその後いくつかの品種のサツマイモを焼いてみたのですが一番近いのは「紅はるか」じゃないかとわが家では思っています。
「紅はるか」だとどこのスーパーでも求めやすいですしね。
焼き芋レシピ・・・紅はるかの場合
いろいろ試してみた焼き方なのですが、我が家では以下の焼き方がベストでした
① 紅はるかを水洗い・・・焼いたら皮も食べた方が良いですからね
② 160度のオーブンで30分
③ 芋を180度ひっくり返して、さらにオーブンで30分
④ 芋を90度返して3たびオーブンで30分
⑤ オーブンのスイッチを切って60分余熱を加える
焼くときにアルミホイルで包むかどうかですが、包まずに焼いた方が皮もより美味しく感じます。
(後日談)百姓貴族ふたたび
「生キャラメル芋。美味しいから、親せきに送ろうかとおもうんだけど」と家人。
「良いですね。きっとお姉さんも叔母さんも喜びますよ!」
「だよね!」
私たちは素早くOisixへ出向き、キャラメル芋を20本くらいケースに詰めて家人の親せき宅へと送り込んだ。
「お姉さんの家は3姉妹もいるから、キャッキャ言いながら食べちゃうと思いますよ」
「だよね!」
私たちは意気揚々と帰路についた。
・・・
数日後
・・・
わが家の固定電話が鳴る
「はい、もしもし、あーおひさしぶりです」
電話は家人の叔母からであった。家人の叔母はかなり勢いのある人です。
良い人なのですが一方的に喋って用件が終わったらブチっと話を切り上げる人でもあります。
「元気にしよん?ほんで、サツマイモ届いた。
ありがとうね。
サツマイモ、近所からいっぱいもらってるんだけど、きっといいサツマイモなんだろうと思う。それでもう食べたんよ。
全部天ぷらにしてなー。
あんまり違いがわからんかったから、あんたサツマイモ要る時はすぐ送るから言うんでー。
そしたら、元気でな、ハイッハイ!」ツー、ツー・・・
話しの合いの手を入れる隙もなく、突如電話を切られる私、、、
ダイニングでは「あー、、、伝わらなかったか、、、」という顔をしている家人
・・・
さらに後日、家人の姉宅のお嬢さんから荷物が届く
箱を開けると「里むすめ」鳴門金時芋が送られてきたのだった。
その夜、家人の姉宅にお礼の電話をする私
「あー、ええんよ、えええんよ。
M子(お嬢さんの名前)がお兄さんからサツマイモが届いたから、きっとサツマイモが好きなんだと思って送ったんやー。
えっ?こっちに送ってくれた芋はキャラメル芋って言うん?
うちら、ほら、サツマイモはあんまり食べないからねー。
子どもの頃は牛や豚が食べてたから。
天ぷらにして食べたわー、ふふふ」
ソファーでは「あー、、、そうだよなー、、、」という顔をしている家人
そうだった、、、家人の実家関係は百姓貴族だったのだ
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ありがとう
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「ありがとう」のカップリング曲「show your smile」も名曲です。