ただいまっ!
15:07
一日ぶりのわが家だ
私は静かに扉の前に立ち玄関のチャイムを鳴らす
そっと扉を開け耳をすます
トンッ
玄関脇の私たちが北の間と呼んでいる部屋からわりと大きな音がした
テチ、テチテチ
私は玄関に立ち静かに待つ
北の間からひょっこりと
『どちらさまですか?拙宅になにかごようですか?』と寝ぼけまなこの猫が顔出す
「こたさんっ!」私は弾んだ声で名前を呼ぶ
ぱあっと顔を輝かせて猫が小走りにお出迎えにでてくる
「お留守番。ありがと」私は猫の労を労う
お留守番という大役を果たした猫はどこか自慢げな顔をしてのどをならしている
清里の夏
この時期、昔バイトでお世話になった清里のペンションに年に一度の顔出しにでかけるのが行事になっている
私の右手にはまだ土の香りのするビーツととうもろこしの詰まった袋
清里のオーナー夫妻が持たせてくれたものだ
清里はいいなあ、夏の清里は特にいい
さらっとした肌触りの良い空気と美しい広葉樹 なんといってもご飯が美味しい
オーナーの畑で取れた野菜でまかないを作るのは私の役目だ
今年は給食用みたいに大きな鍋でたっぷりの清里野菜の煮物を作った
美味しかったなあ
『ごにゃあ』
足元で猫がごはんを催促している
今日の夕飯は軽いものにするとして
いただいた野菜たちは...明日の食卓用だな
ビーツはボルシチに使うと綺麗な赤紫がより映えていっそう美味しくなる
とうもろこしは、、、久しぶりにパンを焼こう
そう決まると私はすばやく猫の食事を用意し、シャワーを浴び、パン生地を作ろう
こねないパンだ
私は方針が決まるといつだって行動が早いのだ
「コーンチーズパン」のレシピ
①小麦粉・イースト・砂糖・塩、スキムミルク、そこに水を加えて簡単に混ぜひとまとめにしておく。
②オリーブ油を塗った手で生地を丸め、きれいなボウルに入れる。生地の表面にぴったりとラップをして、さらにボウルにもラップをする
③冷蔵庫でひと晩、低温発酵させる。これだと捏ねなくても美味しいパンが仕上がる
④翌日、冷蔵庫から出してレンジの発酵コース(35℃20分、そのまま放置10~30分)、倍に膨らみ小麦粉を付けた指で真ん中を刺しても生地がへこまない状態が1次発酵完了のおしらせ
⑤ボウルから取り出してめん棒で優しく伸ばして空気を出す
⑥伸ばした状態で濡れ布巾で挟み、15分ベンチタイム
生地を伸ばす道具は中野うどん学校で拝受しためん棒だ
⑦一度伸ばした後はさらに伸ばしやすくなるので、もう少し生地をのばして、清里のとうもろこしとチーズをたっぷり包む
⑧くるくると巻いて、端をきちんとつまみ閉じる。
⑨2次発酵、レンジの発酵コース(35℃20分)
⑩レンジから取り出して、室温に置いておく。
⑪オーブンを180℃に温めておく。
⑫十分にオーブンが温まったら、オーブンシートの上にパン生地を乗せ、薄く切れ込みを3本、そこにチーズとマヨネーズ(チーズだけだと乾いてしまうので、油分を足すためマヨネーズ)。
⑬180℃で15分、170℃に温度を下げて10分。焦げそうなら、アルミ箔を被せる
⑭焼きあがったらケーキクーラーなど網台に上げて、冷ます。
オーブンの前でパンが焼けるのを待つ時間が好きだ
少し暑いけど、本を読んだり、猫を眺めたり、また本を読んだり
今回のようなお総菜パンは焼き立ての粗熱が取れたころが美味しいが、冷めて生地が馴染んだころも美味しい
今夜が食べごろのはず
大きく切ったビーツのはいったボルシチとともに食卓へ
ボルシチは白いお皿を用意すべきだったかな
多少後悔しつつパンを頬張る
甘いとうもろこしとこおばしい小麦の香りが広がる
来年はきっと
「来年は一週間くらいお休みをもらってうちを手伝ってよぅ」
別れ際のオーナーの言葉を思い出す
「ほんとうよ?私も助かるし毎年顔見るのを楽しみにしてるの」
オーナー夫人が少し痛むのか左手をさすりながらそう微笑む
お二人とも昨年より少しだけ笑いジワが深くなった
「はい、来年はきっと」
私はそう約束して清里を後にした
楽しかった事をうちに帰ったらたくさん話そう
・・・
・・・
家人の許可は下りなかった