我が家は家人も私も、たこ焼きの聖地、大阪出身者ではないため
自宅で焼く機会はさほど多くない。
むしろ、ほぼない。
私たちの実家にも、「たこ焼き」焼き器の鋳鉄はなかった。
ふと中学生の頃の記憶が蘇る。
たこ焼きと私(中学生時代)
たこ焼きは大好きだ。
だが、中学生の頃のおこづかいでは滅多に買う事ができなかった。
「お腹いっぱい食べたい・・・」
どうする?
自分で焼けばいい・・・
私は早速、心当たりのある親友に声をかけた
「家に「たこ焼き」焼き器、あったりする?」
「あるね」即答である。
聞けば、まだ使ったことのない電気加熱式の「たこ焼き」焼き器があるという。
たこ焼きを自宅で焼く文化のないこの地域のご家庭に「たこ焼き」焼き器があるなんて!
親友の父が忘年会のビンゴ大会ででももらったものだろうか?「たこ焼き」焼き器。
「たこ焼き」焼き器とは少々言いにくいので、この記事では以下、電気たこ焼き器と言わせてもらおう。
私はなんてラッキーガールなんだ! 私は神に頭を下げた。
「焼こう」
「誰が?」軽く警戒する親友。
「私が焼くから」ここは譲歩が必要だ。損して得取れだ!(ちっとも損はしていない)
「いいよ」あっさりOKがでた。
「あ、でも材料どうしよう、、、」
「お母さんに買っといてもらうよ」
私に対する親友の母の評判はすこぶる良い。
それもこれも私の人徳なのだろうか! 私はわたしに頭を下げた。
初のたこ焼き器(中学生時代)
いよいよその日はやってきた。
私はエプロンを持参して親友宅に乗り込んだ。
台所ではあらかた下準備の終わったタコと生地が、焼かれるのを待つだけの状態だった。
「下準備、ヨシ!」と心の中だけでつぶやいた(下準備は親友と親友の母がやってくれていたのだった)。
「何から何まで本当にありがとうございます!あとは私に任せて下さい!」私は笑顔で親友の母にお礼と、たこ焼き職人としてのデビュー戦に臨む決意を誇示した。
「電気たこ焼き器、熱いから気を付けてね」どこまでも優しい親友の母。
「はい!ありがとうございます! 頑張ります!」
大丈夫。たこ焼きの焼き方は頭の中で何度もシミュレーションした。
そして私は、大抵のことは初見でそれなりに仕上げてしまう特技の持ち主だ。
きっと上手くできるに違いない。
私は油を馴染ませて熱くなった電気たこ焼き器の型に、躊躇うことなく生地を流し込むのだった。
初めて焼いた、たこ焼の評価(中学生時代)
「すごいー。屋台のたこ焼きと変わらんねー」親友の称賛を浴びる私。
テーブルの上には電気たこ焼き器の上で、いい感じに丸くなった「たこ焼き」が並ぶ。
「上手く焼けているといいんですけど」と少し謙遜する私。
「お腹空いたー」と爪楊枝を掲げる親友。
それもそのはずだ、電気たこ焼き器での調理は熱が上がらず意外と時間がかかったのだ。
「ほんとに美味しそう。さっ、熱いうちに食べましょう」と親友の母。
みんなで爪楊枝を刺し、熱々のたこ焼きをほおばる。
「・・・」
「・・・」
「ん、んー、、、お゛、美味しい」
親友の母のみが美味しいと口にしてくれた。
そんな慰めはいらない。それ以上私に優しい言葉をかけないで欲しい。
私は無言でもうひとつたこ焼きを爪楊枝で刺した。
「やはり、、、」
爪楊枝に刺された丸いたこ焼きは、型から引き上げられるとその形はぐにゃりとティアドロップへと変わり、崩れそうになる。
口に運ぶ。
表面は確かに熱く、表面の裏も熱いのだが、、、中心部がぬるい液体状の生地のままなのだ。
「ごめんなさい」
私は下唇をかみ締める。
「美味しいよ。火は少し通ってないけど、味は美味しい」
それ以上言うな親友よ。
味=生地は市販のお好み焼きの素、しかも君たち母娘が準備してくれたものだ。
「レンジでもう少しあっためてきましょう」
親友母は手早く箸でたこ焼きをつまみ上げ、「たこ焼き」焼き機から大皿に全て移すと台所に消えた。
待つこと5分。
目の前にはラップをかられた大皿に並んだたこ焼き、だったものが並べられている。
たこ焼きたちはどれもこれもその丸い愛らしい形状は留めておらず、ただ平たく、ただ四角く、隙間なく並んでいる。
これは成れ果てだ、、、たこ焼きになろうとしていたもの達の無念の姿なのだ、、、
たこ焼きの成れ果てたちが、悲しみの声をあげているように私には見えた。
たこ焼きはお店で職人さんが焼くものなのだ、、、わたしはそう心に強く刻んだ、、、
もう二度と己が手でたこ焼きは焼くまいて。
私は「たこ焼き」焼きに背を向けたのだった。
そして幾度となく月日は流れた・・・
家人の暴挙
「えんたこポチッたー」と家人が意味不明の言葉を投げてよこした。
「えんたこ?」
「うん、えんたこ。明日届くから。次の休みはたこ焼きパーティーにしようよ」
えんたこ=炎たこ=Iwatani カセットガスたこ焼器 スーパー炎たこ(えんたこ) の事だという。
家人の会社には関西出身者がおり、家でよくたこ焼きを焼くのだそうだ。
それを少し羨ましく思った家人が「えんたこ」をポチッたのだった。
苦い中学生時代の挫折の思い出が蘇る。
何という事だ、家人はたこ焼きを侮りすぎている。
素人が安易に手を出していい相手ではないのだ。
家人はうきうきでam〇zonのレビューを声にだして読んでいる。
虚ろな目で家人を見ながら、家人の読み上げるレビューを聞くわたし・・・
「さすがガス!さすがイワタニ!」
「火力が強くてびっくり!」
「電気なんて使っちゃダメ!」
!!! でんきなんてつかっちゃダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!
私は突如電気に撃たれたように、全身を震わせた。
電気か! 電気じゃダメなんだ! ガスなんだ!
たこ焼きは炎!炎!炎!炎!炎!
炎のリベンジマッチ
それからの私は別人のように「たこ焼き」焼きに向かい合った。
たこ焼きは炎!
それは間違いない。更に高みを目指すには、、、
ネットであらゆるたこ焼きに関する文献を読み進める
そして、たどりついた結論は
炎とだし!
たこ焼きとは表面カリっと中トロリ。
熱々の生地が舌を麻痺させたあと徐々に体温になじむ頃に立ちあがってくるだしのうま味。
そしてタコのグミっとした食感の変化。
食感、熱、味、そしてまた食感と、口に入れた瞬間からつぎつぎと魅力的な変化をみせる。
これがたこ焼きの本質なのだ。
炎は「炎たこ」のガスコンロの火力で問題なし!
タコはいつだって美味しい。近所のスーパーで筋肉質なゆで蛸を買えばヨシ!
問題は生地だ。市販のたこ焼きの素では「銀だこ」を超える事はできない!
私はいつの間にか「銀だこ」を仮想ライバルとみなしていた。
銀だこは生地にこだわりがあるという。干しエビ粉なども含まれているらしい。
やはり「うま味」勝負か、、、
だが私には勝算があった。
わが家の秘伝のだし。
その存在が私に揺ぎない勝利を確信させるのだ。それは、
やまやのうまだし!
そのだしには鰹節粉末、鯖節粉末、うるめ鰯節粉末、焼きあご粉末、昆布粒、椎茸粉末が黄金比で配合されているという。
「わが家の秘伝、っていうか市販品だよね?」
家人の戯言に相手をしている暇はない。
ちなみに「うまだし」の存在は家人の母に教えていただいたものだ。
何に使っても美味しくなってしまう困ったちゃんの「だし」である。
私は打倒「銀だこ」への道に踏み出したのであった。
週末たこ焼き職人
たこ焼き職人の厳しい目が「炎たこ」の鋳型に流された生地を見つめる。
表面カリっと、中トロリの実現に、たこ焼きを返すタイミングは大事なのだ。
表面は液体のまま、底部の皮一枚分がしっかりと焼かれた瞬間を逃してはならない。
今だ!
返しのタイミングさえ間違えなければ良い。
ここまでくればもう殆ど勝ったも同然である。
生地はだし汁を多くして緩めに作ってある。
ガスコンロの火力は強く、表面の皮一枚をしっかり焼きあげてくれるため、たこ焼きは丸い形を保つことができるのだ。
そして熱々の生地は固まる事なく、中で灼熱の状態のまま白いマグマとなって出番を待っているのである。
そしてだしは盤石の、やまやのうまだし。
絶対に美味しいだしに、生地に封じ込められた茹蛸から放出されるダシが加味され、うま味はさらに進化するというわけだ。
盛ってみました。
さあ、どうぞ!
「熱っ、あつっ!」猫舌の家人が騒ぐ。
「ふふ。いっぺんに頬張るからですよ。割って食べたらいいんですよ。
あつっ!」
さすがはガスである。取り皿に乗せてなおこの熱さ。
「ふっ、美味っ、うまっ!ふっ」まだ猫舌に苦しむ家人が騒ぐ。
「美味しいっ!」
熱々の生地の中から急速にカツオ、昆布、シイタケ、蛸のうま味が混然となって口の中に広がる。本当に美味しい。
「すごいね、美味しいね!」騒ぐ家人。
結局、この日のたこ焼きパーティではひとり20個ずつ食べたのだった。
「お腹いっぱい食べたい・・・」と呟いていた中学生時代の私が笑った気がした。
おまけ
わが家で焼いたたこ焼きは美味しくて、ソースを掛けなくても美味しかったのです。
そして、この日以降、ちょくちょくわが家ではたこ焼きパーティを開催しています。
グラタン皿に入れてみたりとかね。
<Amazon たこ焼き関連商品>
Iwatani カセットガスたこ焼器 スーパー炎たこ(えんたこ) ブロンズ&ブラック CB-ETK-1